- 2022.5.3
水猿
息子は小学5年生だ。
ある日、友人達と近所の銭湯に行く約束をとりつけてきた。
19時に集合するのだと云う。
子供達だけで銭湯に行くのも、夜に集まるのも初めての経験だ。
その日、彼は朝から落ち着かなかった。
「お風呂行くの楽しみやわー」
「オレ、朝から楽しみやって、30回ぐらい言うてるなー」
「早く時間になれへんかなー」
と、檻の中の熊のように、グルグルと歩き回っている。
「今の入浴料は400円ぐらいだろうか、子供は半額で、風呂上がりにジュースなども飲むだろうし500円も持たせれば足りるね」
と、配偶者が息子に財布を渡しながら、友達と一緒で楽しいからって、騒いで他の人に迷惑をかけてはいけない。キチンと身体を洗ってから湯船に入るのだ。などと注意を与えている。
ワタシからは「友達とチンチンの大きさを比べてこい」とだけ密令を出した。
しかして、時間になり息子が飛び出して行く。
やれやれ騒々しいヤツじゃわいと思っていると、10分もしない内に玄関のチャイムが鳴り彼が戻って来る。
どうしたどうした、何かトラブルか?
「オレ、楽しみ過ぎて、焦って財布持って行くのん忘れたわ」
そして2時間後、玄関が開き彼が帰って来た。
どうだ楽しかったかい、と声をかけようとするも、ヤツはそのまま廊下を走り風呂場へ行ったまま戻って来ない。
なんだなんだ、どうしたのだと覗きに行くと、足を懸命に洗っている。
何事かと聞くに、
風呂上がりには、夕涼みと云うことをするらしいぞと誰かが言い出して、風呂屋の向かいにある公園のベンチでジュースやアイスなどを口にしながら、皆で喋っていたのだと云う。
すると、じっとしていられない1人が、遊具に突っ込んで行った。
瞬く間に我も々々となり、
「オレ、ウンテイから手を滑らせて、落ちたら下が水溜りやってん」
小僧、風呂に行って汚れて帰って来るとは何事だ。
大人になると自身に新しいことは、ほとんど起こらなくなってしまうが、子供達の初めてを後ろから眺めて追体験する楽しみは、まだまだある。